12月16日(火) 午前8:00
部屋のドアをノックし、長男を起こしました。病院から帰って来て、2時間くらいは眠れたらしい。俺は一睡もできなかったけどな・・・
長男が朝食を食べている間、カミさんの実家に電話し、義母にここまでの出来事を伝えました。
義母はずいぶん冷静で、「いろいろ大変だと思うけど、よろしくお願いします」みたいな感じで、割とあっさりと電話を終えました。
(後で聞いたらびっくりしすぎて、何て言っていいか分からなかったらしい)
続けて長女と次女にLINEで報告し、同じ文面を自分の両親にも送りました。

両親からは「これからすぐゆきます」と返事が来ましたが、今来てもらっても困るのですぐに制止しました。
自分の職場にも事情を簡潔に伝え、今日は一日お休みをいただく旨を連絡。そうこうしているうちに家を出る時間になりました。
午前9:00
長男と二人で再び病院へ。当直の先生から話を聞きました。
「先ほど、他の脳外科の先生たちと話し合いをしました。その結果、出血している動脈瘤の場所が通常よくある位置ではないので、手術をするにあたり周辺の血管がどうなっているか、さらに詳しく調べる必要があるという話になりました」
「検査の方法は、脚の付け根(鼠径部)から動脈にカテーテルという細い管を入れて脳の近くまで持っていき、そこで直接造影剤を流して撮影する(血管撮影検査)というものです」
「この検査の結果を見てどのような手術をするか決定したいと思います。では、こちらの同意書に署名をお願いします」
また同意書だ・・・もう、すべて同意するしかないんだけどな。
検査開始時刻は午前10:00。検査が終わったら電話で連絡をいただけるのとのことでしたので、いったん家に戻っても良かったのですが、そのまま待合室で待たせてもらうことにしました。
テーブルに顔を伏せて仮眠しようとしましたが、全く眠れず。自販機でコーヒーを買って飲み、たいして尿意もないのに何度もトイレに行き、落ち着かない時間を過ごしました。
午前10:45
待合室に看護師さんがやって来ました。
「手術を受けるのにあたって麻酔医から説明がありますので、こちらへお越しください」
長男と二人で全身麻酔の方法とそのリスクなどについて説明を受けました。麻酔医の先生は非常に穏やかで、易しい言葉で丁寧に説明をしてくれました。
自分の手術(下垂体腺腫)のときにも思ったけど、なんで麻酔医ってみんなこんなに優しい感じの人が多いんだろう?
午前11:50
「検査が終わりましたので、先生から説明があります」と看護師さんから告げられ、長男と二人でICU内の面談室に案内されました。
そこで少し待っていると、今朝までの当直の先生とは別の先生がやって来ました。この先生が手術を担当するとのことで、詳細に説明していただきました。
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・今回のくも膜下出血の原因は、脳内の動脈瘤が破裂したことによるもの
・血管撮影検査で調べた結果、脳の奥の方の細い動脈(直径約1mm)にできた瘤(長さ約4mm)から出血していることが分かった
・くも膜下出血の手術の方法は、次の二通りある
1)開頭クリッピング術:頭を切開して直接出血している箇所をクリップで止血する方法
→出血個所を目視で確認して直接処置するため、確実に止血できるという利点がある反面、頭を切開して脳に触れるため、患者への負荷が大きいという欠点がある
2)コイル塞栓術:動脈内にカテーテルを通して動脈瘤まで到達させ、瘤の中に金属製(プラチナ)の丸まった糸(コイル)を詰めて止血する方法
→患者の身体への負荷が少ないという利点がある反面、瘤の場所や形によっては処置が難しいという欠点がある
・今回のケースは出血個所が脳の奥の方の見えづらい位置にあるため、開頭クリッピング術では、処置したい場所にたどり着くまでに手前の脳や血管をうまく避けていかないといけない。また、若い人だと脳が萎縮していないため脳内の隙間が少なく、手術しづらい
・一方、今回出血している瘤は「くびれ」があまりない形をしており、コイル塞栓術の場合は、コイルを瘤の中にきっちりと詰めることが難しい。また、瘤に至るまでの血管がかなり細いため(通常はもっと手前の太い血管に瘤ができることが多い)、コイルが瘤の中に納まり切らなかった場合は、はみ出たコイルが血流を邪魔して詰まらせてしまうリスクがある
・それぞれの方法に利点と欠点がある中で検討した結果、脳を触るリスクの方が大きいと判断し、コイル塞栓術を行うことにした
・現在は、薄い「かさぶた」のようなもので何とか出血が止まっている状態なので、いつまた再出血するか分からない。もし再出血したら命にかかわるので、速やかに手術に取り掛かる
・手術がうまくいったとしても、合併症として「脳血管攣縮(のうけっかんれんしゅく)」を起こすリスクがある。これは、脳脊髄液内に流れ出た血液が分解されていく過程で、血管が萎縮して血流が悪くなり、脳梗塞を発症するというもの。くも膜下出血の後遺症で障害が残る場合のほとんどがこれにあたる。
・その後も、脳脊髄液が脳を圧迫する「水頭症」を発症するリスクもある
・リスクを上げればきりがないが、それらが起こらないように最善を尽くして処置に当たる
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30分くらいかけて、担当の先生からしっかりと説明を受けたおかげで、十分に理解することができました。
脚の付け根から管を入れて脳の奥まで到達させ、太さ1mmの血管にできた4mmの瘤の中にプラチナ製の金属の糸を詰める・・・そんなことが可能なのか・・・
「医療技術ってすげえ」というのが率直な感想です。
手術開始はこの後すぐ、午後1:00から。手術は約3時間かかるとのことですので、いったん自宅で待機し、終わった時点で連絡をいただくことになりました。
もう、すべては先生にお任せするしかありません。先生に深く頭を下げ退室しました。
午後12:40
病院を出て家に帰る途中でスーパーに立ち寄り、お惣菜や弁当を買って昼食にしました。たいして食欲はないけど、しっかり食べておかないと。
午後2:20
仮眠を取るため、布団にもぐり込みました。めちゃめちゃ疲れているはずなのに、いろんな思いがぐるぐると巡り、頭はカンカンに覚醒しています。いかんいかん、少しは眠っておかないと!
午後3:50
全く眠れず、布団の中でもぞもぞしたまま時間ばかりが過ぎ、気が付くとこんな時間。そろそろ手術開始から3時間か・・・
布団から出て、洗濯物を取り込み、服をたたみながら病院からの連絡を待ちました。
こういうときは悪いことばかり想像してしまいます。最悪の事態が起こったとき、自分はその事実をどうやって受け止めたらいいんだろう?その後の対応は?家族への連絡は?その先の生活はどうなるんだろう?
・・・気が付くと手が止まっていました。
時計を何度も見上げ、なかなか連絡が来ないことに不安を感じ始めました。
午後5:20
今日は一日こんな感じなので身体のリズムがおかしく、妙なタイミングで便意をもよおしました。トイレに入り便座に腰を下ろして間もなく、スマホに病院からの着信がありました。
すぐに電話に出ると、先ほどの手術担当の先生からでした。
「手術は無事に終わりました。ほぼ予定通りに処置できましたので、ご説明いたします。この後病院までお越しいただけますか?」
「はい!すぐにうかがいます!」
ズボンが半分下がった状態のままトイレから飛び出して、長男に声をかけました。
「手術、無事に終わったって!すぐに病院に行くぞ!」
午後5:40
病院に着くなりICUに直行し、インターホンを鳴らしました。
「すみません、手術が終わったばかりでまだちょっと片付いていないので、こちらからお声掛けするまでお待ちください」と、看護師さんからの指示があり、待合室で待機。ちょっと早すぎたみたいです。
午後5:50
「どうぞお入りください。もうお目覚めですよ」と看護師さんから声を掛けられ、足早にICUの中へ。
カミさんは酸素吸入マスクをした状態でベットの上に横たわっていました。ベッドに駆け寄ると、こちらの気配に気付いたカミさんが目を開けました。
「・・・ああ、ごめんね。ご心配をおかけしました」とカミさん。
「ああ!気が付いた!よかったあ・・・ああ・・・よかったぁあ・・・」
脚の力が抜け、ガクガクッと膝から崩れ落ちそうになり、目から涙が溢れました。
「・・・で、私の病気はいったい何だったの?」
ああ、そうか。聞かされていないのか。
「『くも膜下出血』だよ」
「ああ、あれがそうなのか。本当にすっごい頭が痛かったよ。あんなの今まで経験したことない」
ちゃんと会話できるんだ。死ななくてよかった。本当によかった・・・
午後6:10
手術担当の先生に呼ばれ、術後の説明を聞きました。
「だいたい予定した通りの処置ができました」
「これが術後の写真ですが、瘤の中にコイルをここまで(見た目で8割くらい?)詰めてあります。これ以上詰めると血管の方まではみ出てしまいますので、ほどほどのところで止めてあります」
「今後は、脳血管攣縮を起こさないように、血液をサラサラにする薬と、血管を拡張する薬を投与していき、経過を観察することになります。まだ安心はできませんが、ここまでは無事に終わっています」
先生からの話を聞いて、とにかく一番危険な状態は脱することができたんだという実感が湧いてきました。
「よかったです・・・本当に、ありがとうございました・・・」
午後6:40
カミさんに「明日また来るよ」と告げて病院を出ました。
外はとっぷりと日が暮れて、冷たい風が肌に突き刺さります。
また夜になっちゃった・・・いやあ、しかし・・・今日は長い一日だったな・・・
安心したせいもあり、ここでどっと疲れが出てきました。そういえば腹が減ったな・・・
家に帰る途中で、夕食を買いに長男と一緒にスーパーに立ち寄りました。
「よし!今日は飲むか!」と思わず口にすると、長男から「いや、それはおかしい。ちょっと冷静になって」と、すかさずツッコミが入りました。
どうも疲れと安心感から、妙なテンションになっていたようです。
(翌日へつづく)
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